SEIJI FUJIWARAのブログ

30代、貿易課で働く双子の父です。

不毛地帯

 山崎豊子著作の「不毛地帯」を読了。全5冊で2500頁を超える大作だけど、楽しいので全く苦にならなかった。主人公、壱岐正が働く近畿商事は現伊藤忠商事がモデルだ。僕の勤め先の程近くの大阪船場界隈が舞台でもあったので、親近感とともに読み進んでいった。

 主人公壱岐正は、陸軍大本営参謀だった瀬島隆三がモデル。彼は伊藤忠商事の会長まで上りつめ、中曽根内閣では財界のブレーンとして影響力を持った人だった。瀬島と壱岐正が全て一致するわけでなく、小説の壱岐正を基に瀬島龍三の全評価は出来ない。

 

不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))

不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))

 

 

 これで今年8月から読み進んだ山崎本「二つの祖国」「大地の子」そして「不毛地帯」の戦争3部作品に区切りがついた。読み終えて、今一度山崎豊子の経歴を考えると司馬遼太郎と比べてしまう。

 高校時代に司馬遼太郎作品をよく読んでいた。彼も山崎豊子と同じく新聞記者から直木賞作家として文壇に登場した。司馬は産経新聞、山崎は毎日新聞。2人とも東大阪が本拠地だった。大物作家のほとんどが東京に住む中で2人は関西在住の物書きを貫いた。

 女性である山崎は戦争中、勤労学生だった。当時恋い焦がれた男性がいたが戦地から戻ってこなかった。彼女は亡くなるまで独身だった。

 司馬遼太郎は学徒動員として戦地に赴き「なぜこんな馬鹿げた戦争をする国になってしまったのか」という怒りが、日本近代を描き出す原動力になった。しかし自身が体験した太平洋戦争について書かずに亡くなる。幕末の「竜馬がゆく」から「坂の上の雲」ごろまでの明治末期まで描くことができても、そこから先に進めなかった。司馬作品は日本の戦後政治家に大きな影響を与えたとされる。彼にはどんなに辛くても、太平洋戦争前後に関する作品を書いてほしかった。一ファンとして残念な気持ちが残る。

 その点、山崎豊子は上記の戦争3部作を描き切った。戦後を舞台にした「白い巨塔」「華麗なる一族」「沈まぬ太陽」も作品全体に共通点がある。

 彼女の目利きに適った人物、許すことができない組織、それに対し懸命に生きる人たちの存在を組み合わせると山崎作品がぼんやりと出来上がる。

 今は、山崎豊子の取材方法について関心があるなあ。

 

作家の使命 私の戦後―山崎豊子自作を語る 作品論 (新潮文庫)
 

 

 

大阪づくし 私の産声―山崎豊子自作を語る 人生編 (新潮文庫)