SEIJI FUJIWARAのブログ

30代、貿易課で働く双子の父です。

ムッシュ・クラタ

  1か月ぶり位に仕事関連と新聞以外の読み物。著者山崎豊子といえば長編社会派小説の代名詞ですが本作は100頁弱の中編。難なく読めて無性にほっとしました。

 

ムッシュ・クラタ (新潮文庫)

ムッシュ・クラタ (新潮文庫)

 

  内容は著者が毎日新聞大阪本社の文芸部時代に出会った主人公ムッシュ・クラタ。小説では仮名のクラタですが、実際には戦前戦後の2度フランス特派員だった板倉進を題材にしています。戦前の新聞社は外信部でも国際部でもなく「欧米部」だったのが気になりました。

 

徹底したフランス流の紳士としてのダンディズムを貫くムッシュ・クラタ

山崎豊子は新聞記者としての彼の評価をそこまで強く書いていません。

必要以上の取材費を使いその多くを自腹で支払うため、自分の家を売り払う。

気に入った芸術家や書き手に多額のギャラや支援を厭わない。

 

 戦争を挟んだ1940年代のフランス駐在日本人で異彩を放った存在だったと想像。新聞記者としての功績はわからないですが、山崎豊子の目から小説の題材にしたいと思う人間臭さがあったのだろう。

 

 ムッシュ・クラタを描くため彼の親友、ライバル社の特派員、著名人、ともにフィリピンで捕虜だった同僚記者、そして妻と娘から取材を行い本当の彼の生き様を描こうとする山崎豊子自身が私小説内で描かれています。

 

 本書のムッシュ・クラタの評価は難しい。インテリで頑固で傲慢な変人ですが、彼が周囲に与えた影響を与え凡人と明らかに違う色彩を放っています。その影響を受けた人たちが、世の中に影響を与えることもある。歴史に残らない見えない力が文化というかその時代の日本人を形作っていたのか。